50周年記念座談会
これからの
建設業を語る
日時 平成30年10月2日(火)
会場 石川県建設総合センター 2階
- 出席者(順不同)
-
- 和泉 康夫
- 協会理事
(株)和泉建設社長 - 井戸谷 信一
- 協会常任理事
北興建設(株)社長 - 梅谷 基樹
- 協会理事
みづほ工業(株)社長 - 北川 隆明
- 協会理事
北川ヒューテック(株)社長 - 鶴山 雄一
- 協会理事
加賀建設(株)専務 - 明翫 圭祐
- 協会理事
(株)明翫組社長 - 鈴木 穣
- 石川県県央土木総合事務所所長
- 磯部 康司
- 金沢市土木局長
- 司会
-
- 岡田 康晴
- 協会常任理事 土木部会長
酒井工業(株)社長 - 藤内 拓朗
- 協会常任理事 建築部会長
橘建設(株)専務
※肩書き・役職などは座談会開催時のものです
【岡田】藤内建築部会長とともに進行役を務めます土木部会長の岡田です。本日、県から鈴木県央土木所長、市からは磯部土木局長にも参加いただきました。お二人には平素より当協会の活動に対しご支援、ご指導を賜り、お礼を申し上げます。
今日は協会理事の若手メンバーを中心にお集まりいただきました。まず、自己紹介とともに建設業の魅力についてお話していただきたいと思います。
連帯感と達成感ある誇り高い仕事
【井戸谷】北興建設の社長をしている井戸谷です。土木学会会長だった大石久和先生の言葉「国土に働きかけて、国土から恵みをいただく」の中の「働きかけ」こそが、まさしくわれわれ建設業の仕事であり、そこに建設業の魅力を感じています。
【和泉】和泉建設は元々製材業を営んでいまして、高度経済成長期に現在の地に移り、建設業へと業態を移行しました。何もない所に道路ができ、橋ができ、そこに建物が建っていく。そのなかで、いろいろな業種の方が互いに協力し合い連帯感を深め、分かち合うことで建物ができあがっていく達成感、これこそが建設業の大きな魅力だと思います。建物がその工事に携わった皆さんの記憶に残り、時には町の歴史に残る建物になっていき、社会に貢献していることを実感できるのも建設業の魅力のひとつです。
【梅谷】みづほ工業の梅谷と申します。弊社は今年で79年目を迎える、建築を中心とした建設会社です。お客様にとっておそらく一番高価な買い物をしていただいているのが、われわれが建設する住宅や建物だろうと思います。その建物をつくることによってまちづくりをし、多くの人々の暮らしを支えているということ。また規模の大きなプロジェクトですので、職人さんや商社の方の協力を得ながら、多くの人の手によってつくり上げていくという喜び、さらには完成した時の達成感、これらが建設業の魅力です。
【北川】北川ヒューテックの北川です。弊社は舗装が中心という意味で地図に残るということ、そしてそれら建設したものが世の中の役に立つということが挙げられます。また、建設業は他の業種と比べても、仕事のスケールが大きいことも魅力のひとつです。
【明翫】明翫組は元々旧美川町で創業し、その後、金沢に移りまして、今年で創業101年目を迎えることができました。建設業は決して簡単で楽な仕事ではありませんが、やりがいがあり、達成感にあふれた面白い仕事です。そして何より、工事や除雪を行うことは地域の皆さんの生活を支えることに直結する仕事だと感じます。自然災害から皆さんのくらしを守り、また新しいインフラを整備することで地域の経済を活性化させることができる、建設業は誇りある業種だと思っています。
【鶴山】加賀建設は金石地域の中で、港湾、特に港の土木工事を中心として成長を続けてきました。会社としての特徴を挙げるならば、現在「若い力」を集めることに注力しています。建設業は、使命感を感じながら人のために役立っていることを「わかりやすく」伝えることのできる業種です。AI時代の到来など、情報化が急速に進歩し、複雑化している今の世の中において、建設業は人の役に立っていることをとても伝えやすい職種です。
地域を支える建設業
鈴木 穣
石川県県央土木総合事務所所長(座談会開催時)
磯部 康司
金沢市土木局長(座談会開催時)
【岡田】県央土木総合事務所所長、鈴木様よろしくお願いいたします。
【鈴木】今年4月から県央に勤務しておりまして、昨年は南加賀の土木総合事務所長をしていました。金沢建設業協会の皆様には、日頃から社会基盤の整備、維持管理、そして地域経済を支えます雇用の担い手として、また災害緊急時の応急対策の面においても、非常にご尽力いただいておりますことを、まずもってお礼申し上げます。
今申し上げたことがまさに、建設業に期待することそのものであると思います。自然と戦いながら人々の役に立つ施設をつくっていくことに、私自身もロマンとやりがいを感じ今の仕事を選びましたし、それが建設業の魅力だと思っています。
【岡田】金沢市土木局長の磯部様よろしくお願いいたします。
【磯部】日頃から金沢市との協定に基づきまして、災害時の対応や大雪の際のご尽力に深く御礼申し上げます。
建設業の魅力について、最も身近な基礎自治体の公共事業を担う立場からお話しします。公共事業は、市民生活にとっては安全安心の確保や生活の質の向上に非常に大きな役割を果たしています。公共工事そのもの、つまりは社会貢献が見える形で残るのがその魅力だと思っております。もう一点は、行政、調査・設計を含めたコンサルタント、そして直接工事を担う皆様の立場、各々がそれぞれの役割分担のもとでひとつの目標に向かって成果を仕上げていく、その達成感を感じることができる魅力ある仕事だと思います。
【岡田】リーマンショックや民主党政権下など大変厳しい時代もあったと思います。それらを踏まえた現状と、会社の未来に向けて、これから取り組もうとしている改革などについてもお話しください。
建設業の枠組みが崩れる
岡田 康晴
協会土木部会長
常任理事
酒井工業(株)社長
【北川】現状は、今まであった建設業という枠組みそのものが崩れつつあると思います。いわゆるIT化により、われわれ業界へ建設業以外の業者が参入してきているということです。影響の良し悪しは別として、例えばコマツさんなど、全く今までとは異なる業界からわれわれの枠組みの中に入ってきて建設業を行っている現状に危機感を覚えています。
ではそのために会社として何をすべきか。弊社は、IT化の流れについていこうとして設備を導入してはいますが、どうすればその流れに乗り遅れないのかを考えています。
【明翫】私が入社した頃は、毎年売上と利益が減少していくような厳しい時代でした。状況を好転させたのは、東日本大震災後の第2次安倍政権の経済政策であったと感じています。デフレ脱却ということで公共投資を拡大し、また東京五輪の誘致も決定して国内の民間投資も回復して、緩やかに建設業の市場回復にもつながってきたと思います。
今後の改革については、やはり人口減少と高齢化の問題というのは建設業にとって依然大きな問題であると認識しており、今推し進められている「働き方改革」により一層拍車がかかっていくのだろうと考えています。週休二日制への対応やIoTやAIといった先端技術を取り入れて、社員一人ひとりの生産性を補助させるのはもちろんのこと、やはり「良い品物をつくる」というものづくりの根本を大切にしていくことがあらためてこれから必要不可欠になってくると思います。
また、建設業者、技術者としての気概というものを忘れないようにしなければならないと思います。
当社としては、若手社員の意識改革ということで、「新5S活動」と銘打ち、5つの「S」に取り組んでおります。Smile、Smart、Speed、Schedule、Sharp、この5つのSを会社の指針として示すことによって、意識の統一を図っております。そして、ベテラン社員から若手社員への技術継承についても取り組まなければならない課題のひとつとして、社内組織の再編成を行いました。ベテラン社員だけで構成される「技術部」という部署を新設して、技術部のメンバーが現場を巡回・指導することによって、リスクの回避やより良いものづくりにつながるよう取り組んでいます。
建設業の魅力を伝える努力を
【梅谷】われわれ管理職や職人の高齢化、それに伴う人手不足、そして若者が建設業に魅力を感じてくれていない現状が建設業の課題であると感じています。また、土木の分野においては、災害時の支援活動を行っているということもやはりPR不足が否めません。
弊社では、職人さん、監督を含めて、きれいな環境で働いていただきたいという思いから取り組んでいる事例があります。いわゆる、きたない、きつい、きけんの「3K」のイメージを若い人たちから払拭するような現場をつくりたいという思いから、建築現場には「日本一きれいな現場」という足場シートを掲げています。決してまだ日本一とは言えませんが、現場監督、職人さんも含めての意識改革に取り組んでいるところです。
【鶴山】国の骨太の方針や国土のグランドデザインによれば、今後、社会基盤はコンパクト・プラス・ネットワークへ向かう方向性が示されています。しかしながらそれでは、若い20代から30代の世代が、本来夢を描けるような国土や、日本の社会基盤をつくっていけるのかと言われれば、やはり疑問符がつきます。そのなかにおいて、やはり社会基盤整備を担う建設業の、国土の力強さを形成していく魅力を世の中に訴えていくには、一個人の企業というよりも、金沢建設業協会のような団体として行政側とパートナーシップを組んで、包括的に皆さんで訴えていく必要があると理解していますし、そうして推進していくべきだと感じています。
2030年までに「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」と呼ばれる、国連が掲げる「持続可能な開発目標」というものがあります。その中には17個のゴールというものが設定されていまして、国や政府が中心となってオリンピックから2030年までに推進していく国際目標のことです。弊社としては、中長期的な見えるヴィジョンといたしまして、このSDGsを中小企業に取り入れて、かつ人材育成に生かしたいと考えています。
【井戸谷】皆さんの会社と私の会社では若干事業形態が異なります。わが社には20名弱の技術職員に、加えて主に特殊工事等に携わる技能工が15名弱と、河北潟農地で展開しておりますアグリ事業に若干名携わっていただき、総勢40名弱の会社です。今突きつけられている課題は、働き方改革という部分と、今日の入札制度下での安定した受注が可能かどうかという点に、経営者としては大変苦慮しています。週休二日制の問題もありますが、在籍する技能工の給与体系ではなかなかそれが難しいのが現状です。加えて高齢化も進んでおります。技術系の社員は何とか高卒の方は採用できていますが、大卒となると採用できていない、そうすると国家有資格者になるまでには随分と時間を要しているのが現状です。先ほど明翫さんがお話していましたが、現場の場数を踏まなければならないことと、資格の問題のバランスがあるのだと思います。働き方改革の一環として給与体系に関わらず有給休暇の取得について社内協議を進めています。また建設業は、身につける服装も含めてもう少し格好良くてもいいのではという協議も進めています。今後の市場動向を見据えて、今年度に大規模な設備投資を実施しました。仕事自体は維持管理に近いのですが、先ほどからお話に出ているIT分野も活用した設備投資を行いましたし、さらに強化して行きます。
【和泉】現状としましては、アベノミクスによる公共事業の拡大で、建設業界は県内県外ともに大変活性化している印象があります。県内においても、ホテルやマンションがあり、若干賑わっていますが、これが来年、再来年、3年、5年後まで続くかと言えば、大変不安もあるのが現状です。
そんな現状において、何より技術者の高齢化、そして担い手となる若手の入職者がいないということが大きな課題だと考えております。当社としては、まず出来ることから始めようということで、週休二日制の導入や、全く経験のない若者を採用し育成していく「トライアル求人」などに必死に取り組んでおります。今後は、女性の活躍推進や雇用改善にも会社として取り組んでいく必要があると考えています。
何よりも、この業界が生き残っていくためには、先人たちが築いてきた「良き習慣」や風習を守っていくこと、そして現状われわれの前に問題となっております「悪しき習慣」を根絶していくことが必要とされていると考えています。
入職者を確保するために
【鈴木】昨年勤務していた南加賀の土木総合事務所で業界の方と求人についてお話ししたことがあります。南加賀では製造業が強く、求職者の若者は製造業と建設業を比べるそうです。給料が同じ場合は、まず休日を調べると年間100日を切るのが建設業で、製造業の方が休みが多い。働く環境についても、製造業は工場の中で、エアコンが効いた快適な環境で仕事ができるのに対して、建設業の現場はほとんどが屋外ですので環境が悪いと比較される。こういったことからどうしても求人には苦労をしているとのお話を聞きました。
県も若者の新規入職者を増やすために、これから社会人になる幅広い年代を対象として、土木、建設業の魅力を発信するために、学校訪問などのPR活動を協会の方とも連携しながら現在取り組んでいるところです。
平成27年度から、休みが少ないとされる建設業界において女性や多様な人材の入職を促進するために、原則、土日を休日とする職場づくりに向けた「いしかわ土日おやすみモデル工事」に取り組んでいます。
さらに、建設現場はどうしてもトイレの問題があります。平成29年度からは男女ともに快適に使用できる仮設トイレ、通称「快適トイレ」を導入して、県としても現場環境の改善に努めているところです。
そして生産性の向上という点については、ICTの建設機械を活用したモデル事業に取り組んでいるところです。
災害対応と老朽化対策が増える
【磯部】金沢市の公共事業費の観点で申し上げますと、これまでどおり必要な社会インフラは整備を進めていきますが、少子高齢化で財源の伸びもあまり期待できない中で、確実に今後増えていき、その備えをしなければならないのが、災害対応だと言えます。ここ数年頻発、激甚化する豪雨災害だけでなく、台風にしても今年だけで平成3年から統計を取り始めて以来の記録的な超大型の台風が二つも上陸しました。今後も十分ありえることですので、災害対応がまず課題の一点。
もう一つの課題は、これまで建設してきた公共施設の老朽化対策がこれから本格化していきます。金沢市の橋梁で言いますと、平成26年から5年かけて、橋長2メートル以上の全ての橋梁、約1,400橋の点検が終わりました。来年度から長寿命化計画を策定することとしていますので、それから本格的な修繕工事が始まってくることになります。
金沢市ではまだ週休二日制の工事に対応はしておりませんが、国・県の先行事例なども踏まえて今検討しているところです。
【岡田】司会を藤内部会長と交替します。
【藤内】最も深刻な問題のひとつとして、人手不足への対応があるかと思います。「働き方改革」について、皆さんの企業ではどのような取り組みを取られて、人手不足にどう対処しているのかについて、少し突っ込んだお話を聞きたいと思います。市とともに宣言もしました女性の参画、女性活躍推進についての課題からお話願います。
女性管理職を育成する
和泉 康夫
協会理事
(株)和泉建設社長
【鶴山】女性技術者は男性と違った強みを持っていると思いますので、最近弊社では女性の管理職をつくろうという試みに取り組んでいます。積極的に外部講習やマネジメント研修を受講できるよう、会社が投資をしています。そういった研修で学んだことを生かしてもらい、彼女たちが次の世代の社員に教え伝えていく仕組みをつくろうとしています。
弊社の場合、従来から強い親方がいてそこから全てが決められていくという体制がありました。しかし働き手が減っている現状では、一人ひとりの力を最大限発揮する必要性がありますし、発揮するための能力育成が必要だと考えていますので、その一環として女性管理職の育成に向けた研修活動などに力をいれている現状です。
【明翫】建築の住宅部門に、今年4年目の女性技術者がいます。やはり女性ならではの細かい気配りなどが、住宅の品質向上には生かされていると思います。
【鶴山】技術者もそうですが、事務員さんも産休・育休から11月に戻って来る予定です。女性の立場からすると、出産・育児をしながら自分たちも今後働きたいと思っているが、会社に果たして戻る場所があるかどうか不安だと聞いたことがあります。そこで企業がどう彼女たちに接し、制度をつくっていけるかということが大事です。
【和泉】和泉建設の場合、いきなり女性技術者の募集をかけてもなかなかご縁がないものですから、先ほどお話しましたトライアル雇用を含めて、まず若い女性に営業やルートセールスのアフターにまわっていただき、女性の観点からこの業界を見て、その意見を私達男性が学ぶことが大切だと考えています。
どうしても建設現場は、工期厳守ということで残業が多く、休みがなく、それに見合った給料がいただけないという建設業の職場環境に関するイメージがまだまだ根強く残っていると感じます。工期や予算の確保は当然のこととして、様々な角度から職場環境の改善に取り組んでいかねばならないと思います。
【鈴木】県では女性の技術職員が増えています。大学でも土木を学ぶ女性の学生が私の時代よりは増えています。県の場合に、女性が入庁してからの出産や育児に対して制度が設けられていますので、早めに申請してもらい、人事の方でやり繰りをしています。ただやはり、産休などで休まれた方はどうしても空白期間ができますので、その点が心配だという声も聞きます。県としても、休職中に研修などがあれば、休まれている方にも連絡をきちんと行う対応は取っています。
【梅谷】女性の雇用について、当社で言えば設計などの部門には来てくれますが、現場監督という職種では現状、入社がない状況です。私が感じているのは、鶴山さんの会社のように、ベテランの女性現場監督がいて、その下に新しい女性を入れていく形を取らないと厳しいのかなと感じています。またベテランの女性を育成するのにも時間がかかると思います。
実は今取り組んでおりますのが、アルバイトで本社に好きな時間に働きにきてもらうことを始めています。この試みを始めてちょうど半年が過ぎました。
パートで1年以内に3名ほどの女性が入社してくれました。3名ともバラバラの日時に勤務していますが、いま現場で行っている事務処理を、現場から本社にデータで集約して、その女性たちに作成してもらい、現場に返すということを実験的に試みています。現場員の負担軽減にもなりますし、女性ライフスタイルにあわせた活躍の場として、ある程度システム化していけることを期待しております。
【藤内】65歳以上の高齢者の雇用についてお聞きしたいと存じます。先に明翫組さんから「技術部」を新設されたお話がありました。
高齢者雇用で技術の継承
井戸谷信一
協会常任理事
北興建設(株)社長
【井戸谷】北興建設では随分昔から技能工の方にも社会保障を掛け正規雇用をしています。河北潟農地でのアグリ事業を開始した背景には、昔は60歳を過ぎると大手さんの現場に入れてもらえなかった時代がありました。そこで先代が再雇用の場として河北潟農地でアグリ事業を試みたのがきっかけで11年目となります。現在は2名の方が従事しています。先般就業規則を改定し65歳まで雇用を伸ばすと共に、65歳以降はその都度本人の意思確認をして再雇用する事となっております。
【梅谷】当社も今年65歳で定年となった現場技術者の方が2名おります。ここ最近は、内勤で積算だとか工事の安全パトロールだとかをお願いしていましたので、引き続き再雇用という形でこれからも頑張っていただくことになっています。部署こそ構えてはいませんが、安全パトロールを通して、現場作業に関する個別の指摘をいただいています。
当社の場合、第1第3土曜日は勤務日なのですが、土曜日は休日がほしいということでしたので、週5日勤務でお願いしています。本来の会社の就業スタイルではなく、本人たちから要望を聞きながら、それぞれが働きやすい勤務スタイルで再雇用を行っています。
【藤内】外国人労働者の雇用はどうですか。
【北川】来月からベトナム人2名を作業員として雇用することになりました。非常に真面目な勤務態度だと聞きました。スコップを持って、日本人たちがやりたがらない力仕事を、この人手不足の時代に担ってもらうという意義ですが、決して給料は安いというわけではなく日本人とほぼ変わらない賃金で雇用します。今回は2人ですが、感触が良ければ、来年、再来年と継続的に採用していく予定です。
【藤内】次に「長時間労働」の問題についてお話しいただきたいと思います。
長時間労働の解消に工期の壁
梅谷 基樹
協会理事
みづほ工業(株)社長
【明翫】建設業は5年後までに、時間外労働の上限規制が適用されるということで、明翫組としましては、いきなり週休二日制を導入するということではなく、年間における休日を増やしていこうと取り組んでおり、会社の「年間休日カレンダー」というものを作成しています。今年の休日が101日(就業時間7時間40分の場合)だったところを、来年は106日にしようとしています。例えば祝日がない月などに会社としての休日指定日を設けて、年間平均して休日を取れるような仕組みを目指しています。
【北川】北川ヒューテックは、社内でカレンダーを二つ、現場用と事務や営業の内務用のカレンダーを今年から作成するようにしました。日数は同じですが、職種に応じて区別するようにしました。
【鈴木】県としても標準工期を実際にかかる準備、後片付けに必要な期間を積み上げて適正な工期の設定に取り組んでいます。施工時期についても、発注や施工が集中しないように平準化することを心がけています。昨年の資材等不足時には工期が延期できない工事と、工期を延期できる工事を、県の方からお示しして、集中するものを選んでいただき、過度の負担とならぬようお知らせしました。
【磯部】市でも平準化には努めています。しかし、国の当初予算、補正予算のタイミングによっては、どうにもならない部分があることについてはご理解願いたいと思います。
金沢市には企業局がございまして、企業局のライフラインの工事などは割と年度間の融通が利きやすいこともあります。そういうことを含めて調整していきたいと思います。
金沢市の場合は従来からの方針として、市民生活に直結する公共事業費は年間220億から230億は堅持するという方針で進めて来ておりますので、総額は何とか確保したいと考えています。
工期を長く取って週休二日制にするなどの担い手不足対応のお話と、生産性向上のお話はセットであるべきと考えています。工期を長く取るとか、担い手不足対応だけが先行してしまうと、どうしても公共事業の予算の立場から言いますと、コストが高くなってしまって、総額が限られている中では、結局は発注本数が減ってしまうことが起こり得ます。
若年就労者の採用と資格取得
【藤内】若い方が資格を取得するまでに非常に年月がかかるという問題があります。
【明翫】2級施工管理技士だと指定学科の大卒で1年、高卒で3年です。
【藤内】1級はそれから5年、やがて10年近くの実務経験が必要とされ、非常に高いハードルと言えます。
【井戸谷】難しいですが、2級については試験の回数を増やすなど、改善されてはいます。
【岡田】土木の場合、2級については年に2回試験が行われるようになり、実地試験は年に1回と変わっておりません。しかし1級土木を受ける高卒の年齢が早まりました。今まで大卒と専門学校卒は26歳の時に受けていましたが、高卒は27歳でないと受験できなかったのが、高卒についても前倒しとなり、皆が同じ年齢で受験出来るような制度になりました。
【藤内】最近では大手のゼネコンでも、地方の学校に求人を出している現状があります。
【鶴山】求人を出している中で手応えは感じられるようになりました。リクルートやマイナビのようなところは使わないという方向転換をしています。大学生や専門学生がインターンシップを8割から9割が受けるようになった今では、就業する前の段階で就業体験を済ませている状況です。その中でいかに、会社として訴えていくか、わかりやすく伝えていくかということが大事だと思っております。
インターンシップがきちんとできるパートナー企業を私たちも選んでおり、そういう企業と連携しながら、自分たちの企業の良さを伝えていくように取り組んでおります。
【北川】北川ヒューテックの場合は、それまで工業科など学科にこだわった採用をしていましたが、6、7年前からは大学生にしても違う学科、例えば体育会系の学生を採用するようになりました。ほとんど専門学科卒の子と比べても遜色ないくらい、育ってきてくれています。
働き方改革にどう向き合う
北川 隆明
協会理事
北川ヒューテック(株)社長
【井戸谷】北興建設は皆さんと雇用形態が異なった会社です。元請主体の皆さんは週休二日制ですとおっしゃいますが、専門業者である私たちは結果的に休めないという状況に陥っています。現在毎月第2第4土曜日を休日としていますが、来年度以降はもう1日土曜日休日を増やし、何とか週休二日制に向けて進めたい反面、技能工である日給月給の方は働きたいとおっしゃっています。技能工の方にも有給休暇を与えてはという発想にはなってきましたが、やはりジレンマを感じます。今、仕事の現場を見ていますと、IT技術を用いたデジタルな話がよく出てきますが、最後の最後に現場でヒトが仕事をしている現実を考えた時、そのような技能工自身の担い手が随分と減ってきている気がします。先ほど磯部局長がおっしゃった安心安全の部分で、このままで本当にそれが守れるのかという不安さえ私自身感じています。
【梅谷】働き方改革で言えば、私は建築の方が問題が多いと思います。土木は公共事業が多い中で、県や市の自治体が週休二日制を推進すれば、現場を止めることも可能ですので、ある程度改善されるとは思います。しかし建築では民間のお客様が多いです。公共事業の建築では土日が休みです、民間では土日関係なくやっています、となった時に、果たしてどうするべきかを考えています。
とは言え、社員さんたちに休んでもらわなければいけないことを考えていくと、再雇用の方に時間で、例えば土曜日だけ来てもらうことも必要になってくるのかなと考えています。2人いる現場ならば、交互に休みを取ってもらえますが、建築では所長が一人というケースが多々ありますので、職人さんが来ている以上休めないというのが現実です。決められた工期に間に合わなければ、遅延損害金だというケースもあります。スケジュールをみながら休みを取れる時に取るという考え方よりも、休んで、誰かが替わりを務められるような、発想の転換も今後考えていかなければならない気がします。
民間から建築を受注する場合に、当社では土日休みなので指定された工期内には引き渡しできませんと言えば、間違いなく土日も休まず仕事して工期内に引き渡しできる会社に受注はいくでしょうね。
集中管理に一つの活路
鶴山 雄一
協会理事
加賀建設(株)専務
【井戸谷】働き方改革や生産性向上に関して、全部の現場の書類を本社で一元管理できればよいのではないかと思います。今はそれを可能にするデジタルなツールは揃っています。
そのために、例えば県や市の検査書類などをパッケージ化できないのかと思います。そうすれば、現場の負担は相当軽減されるはずです。女性の方にそういったことを任せればきちんとしたものをつくるはずです。例え女性が産休に入ったとしても、それは会社にいなくても可能な仕事だと思います。道路使用許可についてもそうだし、現場での写真なども、全て本社で一元管理できたら、もっと皆さん休める状況がつくれるのではないかという気がします。
【鶴山】それは業界としていつも言っていますよね。「働くひと」改革ですよ。
【井戸谷】自分のイメージは、集中購買のイメージです。われわれの業界で集中購買というものは馴染みがありませんが、集中管理みたいなことができたら、かなりスマートになる気がします。
【鶴山】それでいいはず。それに追いつく人をつくる必要があります。
【井戸谷】スーパーゼネコンさんはもう既に進んでいて、若手の技術者をトンネルの現場に入れると、ウェアラブルデバイスのARを身に着けさせて、その端末には過去にどういう事例があったかが出力されるそうです。湧水の時の処置方法など知らせてくれるそうです。
【藤内】今後の建設業のIT化や国土交通省が推進しているi-Constructionについてお願いします。
ICT化とAIの活用
明翫 圭祐
協会理事
(株)明翫組社長
藤内 拓朗
協会建築部会長
常任理事
橘建設(株)専務
【明翫】先日、建設通信新聞で北陸地方整備局が除雪トラックに付属する作業装置のマシンコントロール化の検討に入ったという記事がありました。実際に除雪作業をするオペレーターさんの運転技術をドライブレコーダーで1年間録画し、そのデータを収集記録してマシンコントロール化を図っていくという、今はまだその研究段階だそうです。今後改善が進み、除雪作業が容易に行うことが出来るようになるのではないかと感じています。今後10年を考えれば、除雪に限らず、工事全体のICT化が更に加速していくことが予想されますし、例えばマシンコントロール化も含めて、重機の制御により、安心かつ安全な作業ができるようになると思います。ただ、やはりそのICT化やAIの技術がいくら進んでも、品質の向上にはつながらないとも考えています。基準を満たすことはできても、より良いものをつくるというところには直接つながらないと思っています。良いものをつくるということはやはり、技術者や会社の気概によるところが大きく、それを成し遂げるためにICT化、AI化を進めていくということを忘れてはならないと思います。
【北川】10年後であればわれわれが何となく想像していることは、ほぼクリアされているのではないかと思います。舗装工事にしてもフィニッシャーがあってローラーがあっていま人が乗っていますけど、多分誰も乗ってなくて、誰かが操作して全てが終わるような。現場監督という存在が無くなって、機械を操作するオペレーターと、本当に下で体を使う人、そんな世界になってしまうような気がします。
【明翫】測量に使用される自動追尾型TSやレーザースキャンもありますね。今、現場では、若い子が一人で測量をしています。10年前は、2人で測量して無線で何ミリ前とか声を掛け合っていたのに、若い子が一人で測量を出来るようになってきているのは、既に生産性は上がってきていると言えます。
【鶴山】海のi-Constructionということでは確かに取り組んでいます。海の中は音波、ソナーを中心としたモデリングがありますし、陸は陸で人工衛星から位置情報を確認してのi-Constructionを進めていくことを実際行っています。
しかし課題が二つあるとすると、現状ではやる前とやった後でしか、精度の高いものがモデリングできないということが一つあります。今の通信環境の限界によるものなのですが、これが2020年以降に5Gと呼ばれる通信システムに進んだ瞬間にタイムラグが発生しなくなるので、そうすると様々な技術的革新が起こってくるのだと思います。今現状ではできないということが一点です。
もう一つは、それを現場で解析するのに相当にハイスペックなものが要求されることと、さらにそれを処理する人がいないということがあります。本来そういった時にAIが出てくるのですが、今NTTなどが中心となりプラットフォームをつくっているので、そういったところが情報管理というか情報コントロールを行うようになってくると思います。そうなると、地方の建設業、またこれからの建設業は、大きな資本が牛耳りながら情報を管理して、それを自分たちが下請けでやっていくような世界になってしまう可能性が高いと思います。そこでわれわれがどう危機感をもって取り組んでいくか。
【井戸谷】10年後、多分少子高齢化が更に進んでいるでしょう。金沢市もいろいろな施策で進めていますが、おそらく「コンパクトシティ化」に向けて進んでいくのだろうなと思います。長寿命化や耐震化といった、あるものをいかに長く保たせるかという仕事の変化がわれわれ土木の世界では起きてくるのだと思います。土木の技術者なのだけれども、科学の知識がなければ対応ができなくなるのではという気がしています。
【鶴山】IT系はベトナム、フィリピン、タイがすごい勢いで増えてきています。そういった人たちが国の大事な情報を管理していて、われわれの建設業に関する情報まで管理していることに対しての危機感を感じます。一方でその人達にはできなくて、建設業のわれわれができることといえば、何かと何かをつなぎ合わせたり、組み建てることが今後、AI社会に必要となってくる要素であり、近い将来においても建設業者としての強みになるだろうと思います。
【梅谷】多分、事務処理的な部分は人工知能でいろいろな処理が可能になるのでしょうけれど、職人さんの仕事がロボットなどを使って機械化できるのかと言われれば、それは現実的ではないと思います。
現場でつくるというよりも、3Dプリンターの技術も含めれば、工場生産で現場は組み合わせるだけという流れになってくるのかなと思ってはいます。しかしそれが10年後かと言われれば、もう少し先のような気もします。
【和泉】皆さんのお話を聞いていますと、やはり土木と建築では開きがあるなと実感しました。土木の方は、IT化、AIの活用により、確かに10年後の現場では監督さんがほとんどいなくなって、無人の重機が走っている光景が想像できます。しかし建築の場合は、新築ばかりでなく当然リニューアルもますます需要が出てくると思います。技術は進化していくのでしょうが、やはり地域の人々とのふれあいはなくならないはずですし、ロボットよりも、AIよりも、人間が優れているのは何かということをしっかりと捉えていく必要を強く感じています。私どもは大きな会社ではありませんが、地域とのコミュニケーション、信頼関係は10年後も続くでしょうし、10年後は最新技術と人と人とのふれあいに2極化を迎えてくるようにも思います。
【鈴木】人手不足解消や3K脱却の時には、やはり生産性の向上として、i-Constructionがその手段として考えられてきます。今国のほうでは、調査・測量から設計・施工・検査・維持管理・更新まで、全てのプロセスにICT等を活用するi-Constructionを推進し、建設現場の生産性を向上させる取り組みが進められております。
他方で、先ほど磯部局長からお話がありましたが、お金の問題がございます。インフラの老朽化がこれから更に進んでくるでしょうし、昨今の異常気象を考えると、ますます災害時の対応が必要性を帯びてくると感じています。限られた予算の中で、適切な維持管理を行いながら、新しいものをつくっていく必要があります。このため、県内には大学等の研究機関が多数あるので、生産性の向上や施設の長寿命化に資する技術開発による対応もできないかと思っております。
【磯部】ICTに関しましては、やはり国、県が非常に先行していて、やはり金沢市の場合は災害対応などは小さな業者さんが取り扱うケースが非常に多いので、なかなかすぐに踏み込めないという状況があります。
しかし、どんな状況なのかは知る必要がありますので、この夏にコマツさんの粟津工場を見学させていただきました。バックホーのキャビンの中で、事務の女性職員がエアコンの効いた快適な環境で運転されていました。おそらく10年後には、キャビンそのものがなくなるのではないかと、それくらいの進歩があるだろうと感じています。
身近な例で言えば、現場打ち、コンクリ型枠鉄筋でつくるような構造物はもう極力プレキャスト化に進んでいくと思っています。大量生産にあわせて製品も低価格化していますし、そういった方向に進んでいくと感じています。
【北川】われわれ日本に住んでいる以上は、自然災害は避けられない問題ですし、それに対応するのが、われわれ建設業界なので、そういう意味で考えると、建設業は10年どころか何百年経ってもなくなることはない職業だと思うので、そういうことをこれからの若い子どもたちに伝えて、しっかりとした建設業をわれわれがつくり上げていき、後輩に受け継いでいきたいと考えています。
【藤内】予定の時刻となりました。本日は、多岐にわたり有意義なお話をありがとうございました。協会員の皆さま方には、これからも若い力で協会活動にご尽力いただき、業界を盛り上げていっていただきたいと思います。また、県、市の皆さま方におかれましては、引き続きご支援、ご指導をお願い申し上げます。以上で終了します。ありがとうございました。